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東京高等裁判所 昭和59年(ネ)1067号 判決

控訴人 並木傳三

〈ほか一名〉

右両名訴訟代理人弁護士 窪田澈

被控訴人 山下儀一

右訴訟代理人弁護士 下井善廣

笠井収

右下井訴訟復代理人弁護士 加藤博史

主文

原判決中、控訴人並木傳三に対し昭和四二年一〇月一〇日から昭和五三年一二月六日まで年額金一万四〇〇〇円の割合による金員の支払を命じた部分を取り消す。

右部分についての被控訴人の請求を棄却する。控訴人らのその余の控訴を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じこれを五分し、その四を控訴人らの、その一を被控訴人の各負担とする。

原判決当事者の表示及び主文第三項中「豊田一」を「豊田一」に更正する。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。

2  控訴人並木傳三が原判決別紙第一目録記載(二)の土地につき建物所有を目的とする地上権を有することを確認する。

3  被控訴人は控訴人らの前項記載の土地に対する占有使用を妨害してはならない。

4  被控訴人の反訴請求を棄却する。

5  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二当事者の主張

(控訴人らの本訴請求について)

一  請求原因

1 原判決別紙第二目録(二)記載(ただし、「五五二番」を「五五二番地」に改める。)のように登記簿上表示されている建物(ただし、現況は二階建。以下「本件建物」という。)は、原判決別紙図面イ、ハ、ホ、ヘ、イの各点を順次直線で結んだ線で囲まれた部分をその敷地とするものであるが、右敷地部分のうち同図面表示(A)の部分(イ、ロ、チ、イの各点を順次直線で結んだ線で囲まれた部分)と(B)の部分(ト、チ、ロ、ハ、ニ、トの各点を順次直線で結んだ線で囲まれた部分)とは、以前、一筆の土地の一部であって、北多摩郡清瀬村上清戸字芝山南新田東側五五三番山林四反八畝一八歩に属し、(C)の部分(ト、ニ、ホ、ヘ、トの各点を順次直線で結んだ線で囲まれた部分)は、同所五五四番ノイ号山林二反九畝二七歩に属していた。

2 控訴人並木傳三(以下「控訴人並木」という。)の父並木文吉は、本件建物につき抵当権を設定していたが、右抵当権設定当時、本件建物とその敷地の一部をなす右五五三番の土地とは、中村六三郎の所有であった。

3 並木文吉は、右抵当権実行の結果、昭和八年一二月二六日本件建物を競落した。

したがって、同人は、右五五三番の土地のうち本件建物の敷地である右(A)、(B)の部分につき法定地上権を取得した。

4 並木文吉は、昭和二一年一二月二四日隠居し、控訴人並木は、家督相続により本件建物の所有権及び右法定地上権を取得した。

5 前記(A)及び(B)の部分は、昭和一一年一一月二八日前記五五三番の土地から分筆されて五五三番ノ二となり、更に、(B)の部分が昭和三九年七月四日分筆されて五五三番六八となった。そして、(A)の部分(原判決別紙第一目録(二)記載。以下「本件土地」という。)は、現在被控訴人が所有している。

6 控訴人豊田一(以下「控訴人豊田」という。)は、昭和一六年八月並木文吉から本件建物を賃借し、じ後これを占有している(貸主の地位は、その後控訴人並木に承継された。)。

7 被控訴人は、控訴人並木が本件土地に法定地上権を有することを争い、控訴人らが本件土地を占有使用することを妨害している。

8 よって、控訴人並木は、本件土地につき同控訴人が建物所有を目的とする地上権を有することの確認を求めるとともに、控訴人らは、被控訴人に対し、控訴人らが本件土地を占有使用するについての妨害の禁止を求める。

二  請求原因に対する答弁

1 請求原因1のうち、(A)、(B)の土地部分が一筆の土地であったこと及び本件建物が(A)の部分の上に存することは認めるが、その余は否認する。

2 同2のうち、本件建物及び五五三番の土地が中村六三郎の所有であったことは認めるが、その余は争う。

3 同3のうち、並木文吉が法定地上権を取得したとの点を争い、その余の事実は認める。

4 同4のうち、控訴人並木の相続の事実は認めるが、その余は争う。

5 同5の事実は認める。

6 同6のうち、控訴人豊田が本件建物を占有していることは認めるが、その余は争う。

7 同7は認める。

三  抗弁

本件土地は、昭和九年八月四日中村六三郎から高橋精二に、次いで、昭和一〇年一二月二二日松村つやに、更に昭和四二年四月二一日松村つやの相続人松村清吉から被控訴人に所有権が移転され、それぞれその旨の登記が経由されている。

したがって、控訴人並木は、地上建物である本件建物につき登記を有しない限り、被控訴人に対し法定地上権を対抗することができない。

四  抗弁に対する答弁

抗弁事実は不知。

五  再抗弁

1 並木文吉は、本件建物につき前記競落を原因として昭和九年三月七日所有権移転登記を経由した。したがって、同人は右登記をもって本件土地の所有者に対しその有する地上権を対抗し得ることとなったものであり、その相続人である控訴人も、同様にその有する地上権を被控訴人に対抗することができる。

2 もっとも、本件土地の地番は五五三番二であるのに対し、本件建物の登記簿上の地番は、五五二番地となっている。しかし、次の理由により、控訴人並木は被控訴人に対し右地上権をもって対抗することができる。

(一) 本件建物については、前記競売当時未登記であったのを代位登記したものであるが、当時から五五四番一の土地の上に建てられていて、そのわずかな部分が五五三番の土地のうち前記(A)の部分(本件土地)及び(B)の部分上に存したのであって、登記簿上その所在地が五五二番地となっているのは、明らかな誤記である。

前記競落による本件建物の引渡執行当時、本件建物には中村高幸が居住していたが、同人の転居後は諸橋和四郎が、更に、昭和一六年右諸橋の転居後は控訴人豊田が居住して現在に至っているのである。また、控訴人並木は前記競売当時五五二番地所在の他の建物を取得したことはないし、中村高幸が五五二番地に所在する同控訴人所有の建物に住んでいたというような事実は全くない。すなわち、五五二番の土地は、もと中村清十郎の所有であったが、昭和七年九月一五日同人の死亡により中村六三郎が家督相続し、昭和八年九月二六日競落により並木文吉がその所有権を取得したものである。右土地は、中村清十郎が橋本寅吉に耕作用として賃貸し、並木文吉の所有に帰した後も、右橋本が引続き耕作していたものであり、その地上に民家など一軒もなかったのである。

(二) 控訴人並木は、昭和三三年に岩野春雄のために仮登記手続をする必要に迫られたが、登記原簿が戦災で焼失したと言われたため、同年七月一一日、回復登記の趣旨で、本件建物につき保存登記手続をし、原判決別紙第二目録(一)記載のように、所在地番を五五四番地イとして保存登記を経由した。

右保存登記は、被控訴人が本件土地につき所有権移転登記を経由した昭和四二年四月二一日以前にされたものであるから、控訴人並木は、右保存登記をもって被控訴人に対し地上権を対抗することができる。

六  再抗弁に対する答弁及び主張

1 再抗弁1のうち、登記の点は認めるが、その余は争う。

2 同2の冒頭の事実のうち、本件土地及び本件建物の登記簿上の表示は認めるが、その余は争う。

(一)のうち、本件建物について前記競売申立の際、嘱託によって登記がされたことは認めるが、その余は争う。

並木文吉は、自ら申立てた競売手続において、昭和八年四月二八日、五五二番、五五四番イ、五五四番ロの土地について競落許可決定を受け、また、同年一二月二六日、五五二番地、五五四番地、五五五番地所在の建物五棟について競落許可決定を受けている。すなわち、五五二番の土地及びその上の建物並びに五五四番の土地及びその上の建物が、いずれも競売に付されたことになる。そうすると、競売事件の当事者である並木文吉としては、五五二番及び五五四番の土地につき十分な知識を有していたと推測されるのであり、他の物件については何ら誤りが生じなかったのに本件建物についてのみ表示を誤るということは考えられない。

また、右嘱託による登記は、並木文吉が自ら申立てた競売手続において行われたものであり、嘱託登記のための調査、資料作成は同人が行ったものであるから、本件建物についてされた右登記のうち建物の所在地番につき誤記が生じたとしても、その原因は同人にある。

仮に裁判所の登記嘱託の手続に誤りがあったとしても、並木文吉は物件の取得者であるから、直ちにその誤りに気付き得る立場にあったものであり、何らの手続もとらなかったのは同人の責任といわざるを得ない。

また、前記競売事件の執行調書に、原判決別紙第二目録(二)記載の建物に中村高幸が入居していた旨記載があったからといって、同人と本件建物の現居住者である控訴人豊田との間に介在した賃借人については明らかでないし、右中村は本件建物周辺で同じ控訴人並木所有の建物に転居したという事実もあるのであって、右執行調書の記載のみで、右建物と本件建物とが同一であると判断することはできない。

のみならず、五五四番の土地と五五二番の土地とは、道路を隔ててかなり離れた場所にあり、本件建物の所在地番が登記簿上五五二番地と表示されている限り、五五四番の土地の上に登記された建物があるとは一般人にはわからない。また、本件建物の面積も、登記簿上のそれに一致しない。このように建物の登記簿の表示と実際とが異なり、その相違が同一性を認識できる程度の軽微なものとはいえない以上、本件建物をもって建物保護ニ関スル法律一条にいう登記した建物に当たるということはできない。

(二)のうち、本件建物につき原判決別紙第二目録(一)記載の登記がされたことは認めるが、その余は争う。

右登記は、同一物件に対する二重の登記であるから効力を有しない。

(被控訴人の反訴請求について)

一  請求原因

1 被控訴人は、原判決別紙第一目録(一)記載の土地を所有している。

2 控訴人並木は、右土地の一部である本件土地上に、昭和四二年一〇月一〇日以前から、本件建物を所有して本件建物を占有している。

3 控訴人豊田は、本件建物に居住して本件土地を占有している。

4 本件土地の賃料相当額は、昭和四二年一〇月一〇日当時において月額一万三一六三円(昭和四五年当時の本件土地の価格は一平方メートル当たり八万円であったから、期待利回りを年五分として計算すると一平方メートル当たり月額三三三円となる。)を下らず、また、昭和五二年一〇月一〇日当時において月額三万九五三〇円(一平方メートル当たり一〇〇〇円)を下らないものであった。

5 よって、被控訴人は、控訴人並木に対し、本件建物を収去して本件土地を明渡すこと及び昭和四二年一〇月一〇日から昭和五二年一〇月九日までの賃料相当損害金一五七万九五六〇円と昭和五二年一〇月一〇日から右明渡しずみまで月額三万九五三〇円の割合による賃料相当損害金を支払うことを求め、控訴人豊田に対し、本件建物から退去して本件土地を明渡すことを求める。

二  請求原因に対する答弁

請求原因1ないし3は認め、同4は争う。

三  抗弁

1 本訴請求についての請求原因1ないし6と同じであるから、これを引用する。

2 賃料相当損害金の請求権は、三年の時効により消滅しているので、右時効を援用する。

四  抗弁に対する答弁

1 抗弁1に対する答弁は、本訴請求についての請求原因に対する答弁1ないし6と同じであるから、これを引用する。

2 同2は争う。

被控訴人が、控訴人らの本件土地の占有が権原に基づかないもので不法行為を構成するものであることを知ったのは、反訴提起の直前であり、その時から反訴提起時までに三年を経過しておらず、また、損害金の始期は昭和四二年一〇月であるから、反訴提起時において二〇年を経過していない。

五  再抗弁等

再抗弁に対する答弁、再々抗弁、再々抗弁に対する答弁は、本訴請求についての抗弁、抗弁に対する答弁、再抗弁、再抗弁に対する答弁と同じであるから、これを引用する。

第三証拠《省略》

理由

(控訴人らの本訴請求について)

一  控訴人並木所有の本件建物の一部が、本件土地(原判決別紙図面(A)の部分)の上に存することは当事者間に争いがない。

二  《証拠省略》によると、本件建物及び北多摩郡清瀬村上清戸字芝山南新田東側五五三番の土地は、もと中村六三郎の所有であったが、控訴人並木の父並木文吉は、本件建物に抵当権を設定し、自ら債権者として競売の申立をし、昭和八年一二月一六日本件建物の競落許可決定(ただし、本件建物の所在地番は同所五五二番と表示されている。)を得、昭和九年三月七日所有権移転登記を経由したことが認められる(本件建物及び右五五三番の土地がもと中村六三郎の所有であったことは、当事者間に争いがない。)。

そうすると、本件建物につきなされた競落許可決定においてその所在地番として同所五五二番と表示され、後記のとおりその現実に所在する地番の表示とは異っているが、同競売は実質的には現に所在する地番上の建物につきなされたものであるから、並木文吉は、右五五三番の土地のうち本件建物の敷地部分、すなわち本件土地につき、本件建物のため法定地上権を取得したものということができる。

三  控訴人並木が昭和二一年一二月二四日並木文吉の家督相続をしたことは、当事者間に争いがないから、同控訴人は、本件建物の所有権とともに右法定地上権を取得したものと認められる。また、《証拠省略》によると、控訴人豊田は、昭和一六年一〇月ないし一一月ころ並木文吉から本件建物を賃借し、その後賃貸人の地位が控訴人並木に承継されたが、引続き本件建物に居住して現在に至っていることが認められる。

そして、本件土地が前記五五三番の土地から分筆されたものであることは、当事者間に争いがなく、《証拠省略》によると、本件土地は、昭和九年八月四日高橋精二に、昭和一一年一二月二二日松村ツヤに、その後同人の相続人を経て、昭和四二年四月二一日被控訴人に、それぞれ所有権移転登記が経由されたことが認められる。

四  そこで、控訴人並木の有する右法定地上権をもって、被控訴人に対抗し得るかについて判断する。

1  並木文吉が本件建物につき前記競落を原因として昭和九年三月七日所有権移転登記を経由したことは、さきにみたとおりであり、まず、この登記による対抗力について検討する。

2  《証拠省略》によると、並木文吉が競落した本件建物は、競売申立当時未登記であったため、嘱託による保存登記がされ、その際、所在地番が五五二番地と表示されたこと、右競落当時本件建物には中村高幸が居住していたこと、その後本件建物には諸橋和四郎が居住し、昭和一六年からは、前認定のように控訴人豊田が居住して現在に至っていること、本件建物は、原判決別紙図面のように、その大部分が清瀬市元町一丁目五五四番一の土地の上に存し、残りの部分が同所五五三番六八(前記五五三番の土地から分筆されて清瀬町の所有となり、現在は控訴人並木の所有となっている。)及び本件土地(五五三番二の土地の一部)上に存すること、本件建物の所在地番として登記された五五二番地については、これと同じ地番の土地が本件建物の所在地から道路を隔てて反対側の北東方向にかなり離れて存在することが認められ(る。)《証拠判断省略》

3  右事実によると、並木文吉が競落した建物は、現在五五四番一、五五三番六八、五五三番二の三筆の土地の上にまたがって存在し控訴人豊田が居住している本件建物であると認められるところ、控訴人並木は、これにつき父の並木文吉の名義で所有権の登記を有するが、その登記上、所在地番は五五二番地と表示されており、これは、本件建物が現実に所在する右三筆の土地の地番のいずれとも異なるものであって、五五二番の土地は、現実に存在するが道路を隔ててかなり離れたところに位置するものであるから、右所在地番の相違は、建物の同一性を認識するのに支障がない程度に軽微なものということはできない。

なお、《証拠省略》によると、本件建物は控訴人豊田が入居した後二階部分を増築したことが認められるから、被控訴人が本件土地の所有権を取得した昭和四二年当時には既にその構造は二階建であったと推認されるところ、本件建物についての前記登記はこれを平家建と表示しており、この点からしても、右登記は建物の同一性の認識のために欠けるところがあるといわなければならない。

前認定の事実によれば、右登記における所在地番の表示は、競売申立てにあたり申立人において目的物件の表示を誤ったか、あるいは嘱託による登記手続のいずれかの段階において生じた誤記であるとみる余地はあるが、仮にそうであるとしても、そこに表示された所在地番及び構造が実際と相違し、その相違が建物の同一性を認識し得る程度に軽微なものといえないことは、右にみたとおりであるから、右登記をもっては、本件土地を含む前記三筆の土地の上に本件建物が存在することは公示するに足らないものというべきである。

そうすると、右登記が存することをもって、控訴人並木が本件土地の上に建物保護ニ関スル法律一条にいう登記した建物を所有するということは困難であり、同控訴人は、右登記をもって、その有する法定地上権を被控訴人に対抗することはできないものというべきである。

4  控訴人らは、控訴人並木は昭和三三年七月一一日、本件建物を原判決別紙第二目録(一)記載のように表示して所有権保存登記を経由したので、右登記をもって、その有する法定地上権を被控訴人に対抗することができると主張する。そして、右登記が存することは、当事者間に争いがない。

控訴人並木本人は、原審において、「本件建物の登記簿謄本の交付申請をしたところ、登記簿が戦災で焼失したので、保存登記をするように、と言われたので、家屋台帳に基づいて右登記手続をした。」との趣旨の供述をしているが、にわかに措信し難く、むしろ、本件建物については既にみたように所在地番の異なる登記がされているところから、控訴人並木において本件建物が登記ずみであることを知らないで、右のような保存登記を経由したものと推認される。他方、本件建物の競売手続においてなされた保存登記は、前示のように本件建物の所在地番を誤ってなされたものであり、その所在地番につき控訴人並木において表示の更正手続をとることによって実際に所在する地番上の建物と表示上一致させることができ、しかも、右両登記につき並木文吉の権利取得登記の後利害関係人が存在しないものであるから、建物保護ニ関スル法律一条による対抗力を肯認することはできないものの、その登記自体は有効なものというべきである。

そうすると、前示昭和三三年七月一一日になされた登記は、同一の建物について二重になされた保存登記として、その効力を有しないものといわなければならない。

もっとも、《証拠省略》によると、被控訴人は、昭和二八年一〇月ごろ五五三番の二の土地を松村清吉から借受けて、同地上に引続き居住し、昭和四二年四月に同人から右土地を買受けたものであることが認められ、したがって、被控訴人は、本件土地及びその隣接地である五五三番六八、五五四番一の各土地と本件建物の所在に関する実際の状況については、これを知っていたものと推認されるところ、右買受の時点においては、本件建物につき現に五五四番地イを所在地として表示する所有権保存登記が経由されていたのであるから、被控訴人において、右買受の際、改めて現地を見分し、本件建物及び右の各土地の位置関係について調査をすれば、本件建物につき、その主たる所在地である五五四番一と同一視し得る五五四番イなる地番を表示した所有権保存登記が存することを知ることは可能であったということができる。

しかし、右登記自体、被控訴人が本件土地の所有権を取得した当時二階建であった本件建物を平家建と表示しているにすぎないばかりか、原判決別紙図面表示のように、本件建物のうち本件土地上に存するのはわずかな一部にすぎないところ、《証拠省略》によると、被控訴人は、昭和四四年ころ測量士に測量させた結果、控訴人並木所有の本件建物の一部が本件土地上に存在することを初めて知ったことが認められるのであり、本件建物について同控訴人が昭和三三年に経由した前記登記がその所在地番を五五四番イとのみ表示しているにすぎないことをも合わせ考えると、右登記があることをもって、五五三番二の土地の一部である本件土地上に登記された建物があることを当然に知り得べきであったとすることはできない。

したがって、本件建物につき右の登記が経由されていることをもって、建物保護ニ関スル法律一条にいう登記された建物があるとみるのは相当でなく、控訴人らの前記主張は採用することができない。

五  以上のとおりであるから、本件土地につき控訴人並木が法定地上権を有することの確認を求める同控訴人の請求及びこれを前提として被控訴人に対し占有使用の妨害禁止を求める控訴人らの請求は、いずれも理由がなく、棄却を免れない。

(被控訴人の反訴請求について)

一  請求原因事実は、本件土地の賃料相当額の点を除き、当事者間に争いがない。そして、控訴人並木が本件土地につき有する法定地上権を被控訴人に対抗することができないことは、本訴請求についての判断において説示したとおりである。

そうすると、控訴人並木は本件土地上に本件建物を所有し、控訴人豊田は本件建物に居住することによって、いずれも被控訴人に対抗し得る占有権原なしに本件土地を占有しているものというべきである。

したがって、被控訴人の控訴人並木に対する建物収去土地明渡し及び控訴人豊田に対する建物退去土地明渡しの各請求は、理由があるから、これを認容すべきである。

二  そこで、損害金の請求について判断する。

1  控訴人らは、三年の消滅時効を援用するので、まずこの点について判断するに、《証拠省略》ことに本件建物の一部が本件土地上に存する旨の請求原因を記載した本件訴状が昭和四三年三月一五日被控訴人に送達され、被控訴人においてその後控訴人らの占有権原を争っていることを合わせ考えると、被控訴人は、遅くとも昭和四四年一一月末日までには、本件建物の一部が本件土地上に存することを知ったことが認められるから、そのころ被控訴人は控訴人並木による本件土地の不法占有の事実を知ったものというべきである。被控訴人は、右不法占有の事実を知ったのは、反訴提起(昭和五六年一二月七日)の直前であると主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。

そうすると、被控訴人が本件反訴において主張する賃料相当損害金の請求権のうち、右反訴提起時において既に三年を経過したものは、時効により消滅したものというべきである。したがって、控訴人並木は、昭和五三年一二月七日以後における本件土地の占有による賃料相当損害金を支払う義務がある。

2  そこで、損害金の額について検討するに、この点についての当裁判所の判断は、原判決書一八枚目表三行目中「一〇〇分の一、四パーセント」を「一〇〇分の一・四」に、同四行目中「〇・三パーセント」を「一〇〇分の〇・三」に、同六行目中「約七、〇〇〇円(端数処理した)」を「七〇〇六円(円位未満切捨)」に、同九行目中「昭和」から同末行中「ある。)」までを「前記昭和五三年一二月七日」に、同裏一行目中「一万四〇〇〇円」を「一万四〇一二円」に、同行中及び同七行目から八行目にかけて「認容することとする。」を「認容すべきである。」に改めるほか、原判決理由説示四1、2(原判決書一七枚目表一〇行目から同一八枚目裏八行目まで)のとおりであるから、ここにこれを引用する。

3  したがって、被控訴人の控訴人並木に対する賃料相当損害金の請求のうち、昭和五三年一二月六日以前に生じた分の支払を求める部分及び同月七日以降に生じた分につき右の限度を超えて支払を求める部分は、いずれも失当として棄却すべきである。

(結論)

以上のとおりであるから、原判決中、控訴人らの被控訴人に対する本訴請求(原審における予備的請求)を棄却した部分は相当であり、また、被控訴人の反訴請求につき、控訴人両名に対し建物収去ないし退去土地明渡しを命じた部分及び控訴人並木に対し昭和五三年一二月七日から右明渡しずみまで前認定の限度内において賃料相当損害金の支払を命じ右期間中のこれを超える損害金の請求を棄却した部分は相当である(原判決中、右限度内の一部の請求を棄却した部分については、被控訴人から控訴が提起されていないので、控訴人並木の不利益に変更することはできない。)が、同控訴人に対し昭和四二年一〇月一〇日から昭和五三年一二月六日までの損害金の支払を命じた部分は不当であるから、この部分は取消を免れない。

よって、原判決中右の部分を取り消し、この部分についての被控訴人の請求を棄却し、その余の控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を適用し、なお、原判決中当事者の表示及び主文第三項に明白な誤記があるのでこれを更正し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 舘忠彦 裁判官 赤塚信雄 裁判官新村正人は転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 舘忠彦)

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